ドクターゆきこの温泉のおはなし7
【温泉水の老化現象】
温泉水も「老化」するんですよ。だからかけ流しが良いのです。このことについて科学的に詳しくどうぞ。
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温泉は古くから、湧出直後の「かけ流し湯」の方が、時間が経過して老化した温泉より高い治療効果があることが、経験的によく知られています。
「泉質の老化」とは、湧出直後の泉質が、地上の大気環境に触れ、時間が経過すると、主として「酸化」の化学反応を受け、湧出直後に持っていた「還元能力」を失っていく過程を指しています。
この現象の追跡には、水の電位を基点として、まず湧出直後の泉質との間、さらに時間経過した泉質との間に、どの程度の電位の開きがあるのかを計測することで、その時点の泉質の老化がわかります。
湧出直後の温泉水は、一般的に含有成分に還元型(相手を還元し自分が酸化される)を含んだ還元系で、その後時間の経過につれて自らの泉質は酸化され還元能力が落ちて老化が進みます。
たとえば蔵王酸性温泉水の泉質老化計測では、湧出直後の電位差が-0.16V、それが時間経過につれて酸化が進み、電位差-0.10Vまで上昇し、泉質が劣化していることがわかります。
山水園のアルカリ性「翠山の湯」では、湧出直後の電位差が-0.251Vと還元能力に優れています。温泉水の生理的治療作用は、多くのイオン含有成分に負うところが大きいのですが、時間経過に伴って泉質が酸化すると、この効用も失われます。
この観点からも、湧出直後の「かけ流し湯」が温泉効果が高いと考えられるのです。温泉は相手(入浴者)を還元作用で癒やしてあげて、自分は酸化される。そうやって人を助けてくれるのです。
(文:温泉療法専門医・リウマチ科医師・アレルギー科医師 那須野友規子先生 肩書は執筆当時)
追記。
文中に出てくる数字、これが低いほど還元能力が高いのです。
この文中には、山水園の翠山の湯のそれは-0.251Vとありますが、山口大学農学部獣医学科の木村先生が実験のために計測された際、当方のお湯の電位差は-0.295Vとか、時に-0.3Vなどの記録があります。
山水園のお湯は湧出時70度あるのですが、この計測器は湯温が50度に下がるまで使えないため、冷めるのを待って測っています。その間にもお湯は老化しますから、実際には-0.3Vよりさらに高い還元能力を持つお湯だということです。